本当にメニエール病?

最近の記事は休診の情報ばかりでしたので、たまには耳鼻科医らしい専門的な情報も発信したいと思います。

皆さんは、めまいで有名な「メニエール病」という疾患をご存知でしょうか?

メニエール病は厚生労働省の特定疾患に指定されており、日本めまい平衡医学会による厳格な診断基準があります。

メニエール病 (Meniere's disease) の診断基準 2017年

A. 症状 
1.めまい発作を反復する。めまいは誘因なく発症し、持続時間は10分程度から数時間程度 
2.めまい発作に伴って難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状が変動する 
3.第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない 

B. 検査所見 
1.純音聴力検査において感音難聴を認め、初期にはめまい発作に関連して聴力レベルの変動を認める
2. 平衡機能検査においてめまい発作に関連して水平性または水平回旋混合性眼振や体平衡障害などの内耳前庭障害の所見を認める
3. 神経学的検査においてめまいに関連する第Ⅷ脳神経以外の障害を認めない
4. メニエール病と類似した難聴を伴うめまいを呈する内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など、原因既知の疾患を除外できる
5. 聴覚障害のある耳に造影 MRI で内リンパ水腫を認める

診断
メニエール病確定診断例 (Certain Meniere's disease) 
A. 症状の3項目を満たし、 B. 検査所見の5項目を満たしたもの
メニエール病確実例 (Definite Meniere's disease)
A. 症状の3項目を満たし、 B. 検査所見の1~4の項目を満たしたもの
メニエール病疑い例 (Probable Meniere's disease)
A. 症状の3項目を満たしたもの
            
[診断にあたっての注意事項]
メニエール病の初回発作時には、めまいを伴う突発性難聴と鑑別できない場合が多く、診断基準に示す発作の反復を確認後にメニエール病確実例と診断する。

上記の診断基準を満たした人のみが真のメニエール病ということになります。

メニエール病の有病率は低く、厚生労働省の報告では人口10万人あたり50人程度とされています。したがって釧路管内ではせいぜい100人くらいである稀な疾患という位置づけになります。釧路管内で診ている患者さんの数が最も多い当院においても、メニエール病(疑いを含む)の患者さんはそれほど多くありません。

メニエール病と診断された患者さんにはイソソルビドという利尿剤が処方されます。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、非常に飲みづらい(美味しくない)シロップの薬です。

重要なことは次の二点です。

①聴力検査で異常がないのにメニエール病と診断することはできない
→メニエール病の難聴には特徴があり、多くは「低い音が聞こえにくくなる」という低音障害型難聴になります。また近年では「蝸牛型メニエール病」といって耳の症状のみでめまいを伴わないタイプのものもあることがわかってきております。いずれにしろ聴力検査を行わずにメニエール病の診断をすることは絶対にできません。

正確な鼓膜所見をとらず、聴力検査だけをしてもメニエール病と診断することはできない
→難聴を引き起こす疾患はなにもメニエール病だけではありません。他院にて耳の診察を一切せず聴力検査の結果のみでメニエール病と診断を受けイソソルビドを処方された患者さんが、不審に思いセカンドオピニオンを求め当院を受診、耳垢が大量にたまっており、それを綺麗に除去してから聴力検査を行ったところ正常だったというケースも実際にありました。。。耳鼻科医としての基本をおろそかにしてはいけないと再認識するできごとでした。

非常に残念なことですが、安易にメニエール病と診断されている患者さんが散見されます。
自分が本当にメニエール病なのかどうか、少しでも不安な方は是非一度ご来院ください。